映画「buy a suit スーツを買う」の感想
スーツ屋なので気になっていた映画。スーツを買うシーンは全体のごくごく一部で、スーツを買う人のハウトゥになったり、スーツを着ることでスーパーマンになったりする映画ではないです。でも、スーツを買うことを特別な何かにしたいと思っている私にとっては観て良かった映画。
渋谷ユーロスペースで鑑賞。久しぶりの渋谷で迷った…。
HDcamで撮影されているためか映像はざらついています。ケータイ動画やインターネットで見る動画を映画館で見ている感じ。
別に美麗な映像を楽しみたかったわけではなかったし、人の輪郭や町の一部がジャギジャギした感じを大きなスクリーンで観ることができたのが新鮮でした。特に隅田川の水面は光る四角辺がぷかぷかと浮かんでいるようで、隅田川の臭いまで思い出せました。
東京に初めて出てきた女性がホームレスの兄と再会。兄と兄の元妻と妹で酒を飲む、という話です。行き詰まった兄が発する重苦しい雰囲気の中、生活者や観光客で賑わう秋葉原と浅草の雑踏の映像がカットインする(兄妹が話している間でも)。
「スーツを買う」のパンフレット。監督のメモ書きなどを掲載。
人が早足で歩き電飾で彩られたエネルギッシュな世界と、時が止まったかのように閉塞感に満ちた兄妹の世界が対比されているように見えました。舞台が東京なのに全編関西弁な点も含めて、独特の異世界感が出ています妹さんは言動に気立ての良さがにじみ出てる。「背広買うたるわ」という言葉の響きは可愛らしいです(笑)。前半に出た男性のスーツの袖丈はちょっと長すぎるかな。
クライマックスの後、浅草の仲見世辺りで既成のスーツを買う場面。「え、何が起きたの?」という感じでぎょっとさせられました。スーツを買うことは何でもない事のように見えて割合と大変で、動機から購入まで強い力が生み出される行為ではないか…と、私は考えています。「スーツを買う」という特別な行動と印象的な出来事が結びついて巨大なエネルギーになっていたなあ、とスタッフロールを眺めながら思いました。
できればスーツを買う時は楽しい記憶を伴ってほしいもの。明日からもっと良いスーツを、良き思い出を提供できるように頑張ろうと勇気を貰えた作品となりました。
(2009年4月13日 福田)
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